光学素子
ガイダンス
レーザビームエキスパンダーテクニカルノート

レーザビームエキスパンダーは細いレーザビームを太いビームにする機器ですが、これを逆向きにし、レーザビームを細くする目的で使用する場合、注意しなければならない点があります。

幾何光学的に考えた場合、レーザビームエキスパンダーを反対向き(出射口)からレーザビームを入射させると、細くなったコリメートビームが出射されることになります。しかし、レーザビームは波動的な特性があるので、現実には幾何光学で言うコリメートビームにはなりません。
出射口の有効径に近い太さのレーザビームを入射させた場合は、幾何光学の結果とほぼ同じ、ビームエキスパンダーの倍率分だけ細くなったコリメートビームを得ることができます(下の図のビーム径:大を参照)。
しかし、入射ビームのビーム径(1/e2※1が細くなってくると、ビームエキスパンダーの入射口の近傍にビームウェストを形成し、その前後に平面波(コリメートビーム)の領域が続きますが、しばらく過ぎると緩やかに発散するビームに変化していきます。
この平面波の領域はレイリー長(Zr)※2と呼ばれ、入射口側にできたビームウェスト半径(ω)の2乗に比例します。
さらに、入射ビームを細くすると出射されたビームのビームウェスト(ω)はさらに小さくなり、レイリー長(Zr)は極端に狭くなり、すぐに発散ビームとして出射されます。
波長によっても異なってきますが、波長632.8nmの時、ビームウェストの直径(2ω)がΦ0.3mm以下になると、レイリー長(Zr)は112mm以下に縮小されます。
この領域から離れたところでビームを観察するとコリメートには見えず、ビームは発散して見えます。
レーザビームエキスパンダーにも光学収差や調整ずれは存在しますが、上記の説明はレーザビームエキスパンダー側の性能の問題ではなく、光そのものの回折現象によって生じる現象です。
このため、レーザビームエキスパンダーを交換したり光学系を再調整しても、発散角度が0になることも、レイリー長が長くなることはありません。

※1 入射ビームの輝度分布はガウス分布であると仮定している。また、光学非線形効果もないとする。
※2 レイリー長(Zr)の厳密な定義は、ビームウェスト(ω)の位置からビームウェストの√2倍まで大きくなったビーム半径の位置までの距離を言う。

レーザビームエキスパンダーのビームウェスト径(2ω)とレイリー長(Zr)の関係

レーザビームエキスパンダーのディオプター調整

レーザビームエキスパンダーを通常の方向で使用する場合、ディオプター機構を調整することで、拡大ビームの発散>平行>収束を調整することができます。
しかし、ビームを縮小させる方向で使用した場合は、ディオプター機構を調整しても、ビームウェストの径で決まるNAよりもビームの発散量を小さくすることはできません。ビーム発散量が小さくならない代わりに、ビームウェストの位置が前後に動くことが知られています。
実際のレーザビームエキスパンダーにはレンズの収差があり、入射されるレーザビームも完全なガウス分布でないことがほとんどです。このため、ビームウェスト近傍でビームの観察する位置をずらしていくと、ビームの輝度分布は複雑に変化していくのが観察されます。輝度分布がガウス分布でない場合、ビームウェストの位置を特定することは非常に困難になります。

ディオプター機構調整によるビームウェストの変化

ガリレオ式ビームエキスパンダー

これまで、ケプラー式のレーザビームエキスパンダーを使って説明してきましたが、シグマ光機のレーザビームエキスパンダーは全てガリレオ式です。ケプラー式もガリレオ式もレイリー長の考え方には差はありませんが、構造の違いによって、ビームウェストの位置に違いが生じます。
ケプラー式では、出射側(縮小ビーム)のビームウェストはレーザビームエキスパンダーの外側に生成されますが、ガリレオ式はレーザビームエキスパンダーの内側に虚像のビームウェストが生成されます。
このため、細いビームを利用する目的にはあまり適していません。


細いビームを実験に使うには

ガウシアンビームの線形な光学の理論では、レイリーの式に従わないような細くて長いコリメートビームを作ることは不可能です。このため、細いビームを実験で使用する場合、ビームが照射される場所にビームウェストを生成する光学系を考えなければなりません。
このような場合、凸レンズ(DLB)を適切に選定することで目的の場所に必要な大きさのビームウェストを生成することができます。
ただし、レンズの焦点距離(f)は、入射ビーム径(D)と出射側のビームウェストの径(2ω)、レーザの波長(λ)によりビームウェスト径の式で一義的に決定されます。
当然、レーザビームエキスパンダーと凸レンズで、同じビームウェストの径であれば、レイリー長も同じ長さになります。
小径のビーム径であれば、レーザビームエキスパンダーと凸レンズは波動光学的には等価光学系であると言えます。